日本語が保持していたcausal inferenceの8つの部品
日本や中国で今も用いられている漢字のおもしろい性質のひとつは、文字の構成要素に古い意味が残っているという点です。 Causal inferenceに対応する漢字を眺めていると時代を超えた構造の輪郭がくっきりと浮かび上がります。
ひとつ目の漢字は 因(in) です。大きな四角をイメージしてください。これはもともと敷物のことでしたが、実は宇宙や空間のモチーフとして用いられています。 その四角の上に、人間がひとり、手足を広げて横たわっている。 この字形には、人間が世界や自然の中に置かれているという感覚が残っています。
ふたつ目の果(ga)はもっと具体的であり、当時の人々が何を見てこの漢字を記したのか、その足跡が残されています。 この漢字は上下2つにわかれます。下の部分である「木」は、もちろん樹木のことです。 そして木の上には「田」が描かれており、これは木の上で成熟した果実を図案化したものです。 成長の過程を経て、最終的に実ったもの─それが「果」です。
みっつ目は推(sui)です。これもまた「因」、「果」と同じように2つにわけられますが、今度の分割では左右にわかれ、左は手、右は鳥を表します。もともとは具体的な動作を想起させる字でしたが、時代を経て意味は抽象化されました。現代的には、ここに行為(action)と対象(object)を読み取る方が自然でしょう。
最後の漢字である論(ron)もまた抽象的です。今度は右側の部品からみてみましょう。それは「侖」です。これ自体もひとつの漢字ですが、この字の下をみてください。 縦に四つの線が並んでいます。これはたくさんの要素が整然と並んでいる様子です。この「侖」という漢字は、何かを秩序(order)だてて考えることを意味しています。 そして「論」の左側の部品は、今ではもともとの形を留めてはいませんが、現代でも言語(language)を意味する漢字そのものです。
つまり、日本語のcausal inferenceは8つの部品から構成されています。そしてそれは、宇宙、人間、木、果実、行為、対象、言葉、秩序をそれぞれ意味しています。
因果とは、自然の法則であると同時に、人間の視点と操作を含む概念であり、その構造を言語として整え、社会で共有する営みでもあります。研究者や哲学者が今も関心を持ち続けているcausal inferenceの骨格が、思っていたよりずっと古い場所に残されていた─そう読めても、不思議ではないと思いませんか。
Calligraphy by Eiji Sakurai.