Communicating with Care

Publish a Paper III − Communicating with Care
Keywords: language & writing
言葉を整える時間
お父さん「論文は書けた?」
私「Resultsの途中まではね。診療しながらだと、まとまった時間がなかなか取れなくて」
お父さん「そうだよね。論文って、書くときはそれだけに集中しないと進まないものだから」
私「わかるー。このあたりの英語表現なんだけど、少し見てくれる?」
お父さん「文章を見直してるところなんだね。あれ、画面のまま?」
私「だめかな」
お父さん「だめじゃないけど。落ち着いて推敲するときは、紙に出して読むのも悪くないよ。画面と紙じゃ、同じ文章でも印象が変わるから」
私「はい、プリントアウトしましたー」
お父さん「まず気になったのは、この一文かな」
Overall survival curves and disease-free survival curves were estimated by the kaplan-meier method and tested with p-value less than 0.05 as significant.
私「どこが変?」
お父さん「意味は伝わる。でも、専門用語の並び方が少しちぐはぐに見える」
私「kaplan-meierもp-valueも、統計のことばでしょ?」
お父さん「そうなんだけど、役割が違う。Kaplan–Meierは“方法”で、p値は“指標”だよね。同じ列に並べるなら、レベルをそろえた方がいい」
Overall survival curves and disease-free survival curves were estimated using the Kaplan–Meier method and compared by the stratified log-rank test. The significance level was set at 0.05.
私「細かいけど、たしかに」
お父さん「推敲ってそういうものだよ。論文の文章を見直すとき、いつも気にしてほしいことがある」
私「なに?」
お父さん「この3つを頭に置いておくといいよ」
専門用語は、正確に使われているか
情報は、第三者が読み返して再現できるだけ書かれているか
主張の強さは、結果に見合っているか
お父さん「どれも特別なことじゃない。でも、これが崩れると、文章全体の信頼感が落ちる」
私「たとえば、この文章はどう?」
The return-to-work rate was defined as the proportion of return-to-work divided by the number of patients.
お父さん「悪くはないけど、少し情報が足りないかな。いつ時点の話?分母は誰?」
私「あ、たしかに。もともと働いていた人だけだ」
お父さん「じゃあ、そこは書いた方がいい。結果が正しいかどうか以前に、“何を数えたのか”が伝わらないと、読者は判断できないから」
The return-to-work proportion was defined as the number of patients employed 12 months after surgery divided by the number of patients who were employed at diagnosis.
私「ちょっと冗長じゃない?」
お父さん「うん。でも、親切ではある。論文では、親切さが勝つことも多いよ」
私「ここは強調したかったんだけど」
Stoma creation was strongly associated with a difficulty in return-to-work.
お父さん「気持ちはわかる。でも、少し強いかもしれないね」
私「結論なんだから、強くいってもいいかなと思って」
お父さん「強調したい結果ほど、淡々と書いた方が伝わることもある。特にConclusionではね。それに、“strongly”とか“significantly”って言葉は、読み手によって受け取り方が変わる。表現を変えた方がいい。2つ例を挙げる」
Stoma creation was significantly associated with a difficulty in return-to-work (p=AAA)
The odds ratio for delayed return-to-work was BBB (95% confidence interval CCC to DDD, p=EEE)
私「significantって書くと、自動的に統計学的に有意って意味になっちゃうんだっけ」
お父さん「そう。使うならp値を示すし、Methodsに解釈も書く。効果指標と信頼区間も忘れない。推敲は、言葉を整える作業に見えるけど、実際は”読者がどの世界を読むか”を整える作業なんだ」
私「全部一気に直そうとすると、頭が追いつかないよ」
お父さん「それでいい。一度に全部整えようとしなくていい。今日は専門用語、次は情報量、その次はトーン。そうやって何度も読み返す」
私「地味だね」
お父さん「うん。でも、そうやって時間を掛けて整えていくものだよ。推敲は、すればするほどいい文章になる」
私「うん。だから、急がない」